『ココ・シャネル 時代と闘った女』を観ました。
同時代の写真、映像をつなぎ合わせながら語られる、謎の多いひとりの女の一生。力作でした。
冒頭でまず、有名な孤児院のエピソードが全否定されてびっくり。
シャネルブランドの商品イメージと修道院とをリンクさせた神話を打ち砕いて始まる55分の映像作品です。
「目立つためなら何でもした」というパリ時代のスタート、対独協力者としてパリに居られなかった戦後の10年間、香水事業で盤石な資金源を得てからはモードとの乖離。
容赦なく淡々と語られるエピソードは興味深く、観終わってようやく、何かの象徴でなく血の通った人間像が出来た感じです。
自立を目指して戦ってきたシャネルが旗を降ろす相手、オーナーのヴェルテメール家との確執は、機会があればもう少し知りたい。
なお、シャネル女史は早口なので(笑)字幕が到底足りず、フランス語を聞いて理解できる人は3割増しで楽しめそうでした。
雲を見に
風景画をたくさん見たくて、三菱一号館美術館へ。
ターナーと同世代の画家、コンスタブルの英国風景画を見てきました。
ドラマティックな空と、空の光に説得力をもたせる木陰の描き込みが美しい風景。
たくさんの雲の表情を眺めることができます。
コンスタブルは英国のさまざまな場所に滞在し、戸外での製作に重きをおきますが、この製作スタイルはチューブ入り絵の具が発売されたことで可能になったとか。なるほどね。
風景画の光と影といえば、先日東京都美術館で見た吉田博展も良かったです。
ハイライトを白で入れられる油彩と違い、版画での光の表現は摺り残すしかなく、摺り(=影)で光を表現することになります。
平均で三十数回摺り重ねられるという作品、どれもカラートーンが美しく、気に入った作品の前ではしばらく立ち尽くしてしまいました。
話は戻ってコンスタブル。
展示作品のなかには肖像画もいくつかあったのですが、どれも瞳が綺麗だったのが不思議。
肖像画では唯一、光の灯るポイントだからかもしれません。
トップの写真はちょうど半年前の湿原。
風景画をたくさん見て、ふたたび大きな空を見たくなりました。
香りの器
汐留美術館の「香りの器」展を見てきました。
手のひらサイズに美しくつくられた古今東西の工芸品の、可愛らしいこと。
濃いめブルーのウエッジウッド。オクタゴンのクラシック。
蓋がまた。
ペールグリーンの花のつぼみ。
有史以前から私はここに居ました、と言われても驚かない完全なかたち。
モノがここに落ち着くのに必要なのはただ、クリエイターの磨かれた感覚。
蓋には三羽の蝶が控えめに。
展示品で一番気に入ったのは、9世紀か10世紀ごろの「二重円圏カット装飾香油瓶」と「桐鳳凰文鎖付香水瓶
」です。(どちらも残念、撮影不可でした)
前者のガラスは変質して(ローマングラスと同じ、銀化というそう)、虹色に輝いています。土もついてざらざらで透明ではなくなっているのに、佇まいの透明感が不思議。
後者はひと目で解る日本製。最上級の作りのものだけが持つ気品があります。そして菊の鎖がたまりません。
ガラス越しの水仙を横目に、美術館を後にしました。
あと数日で立春。
もうすぐ、白梅や沈丁花や水仙、香りの楽しい季節になります。
ペイズリー
自由が丘の岩立フォークテキスタイルミュージアムへ。
「インド 沙漠の民と美(後期) ラージャスターン州 伝統の木版更紗と絞り」が開催中です。
ミュージアムオープン10周年を記念して、岩立広子さんが1970年代に初めてインドを訪れた際に出会った素晴らしいテキスタイルが展示されています。
モスリン生地の、マハラジャのターバン。(写真は2017年の松濤美術館)
ずっと気になっていたこの、ぎざぎざのシマシマを絞りで実現する方法を学芸員の方に伺って、やっと理解できました。
すっきり。そして、すごすぎる。
もうひとつの “発見” はいわゆるペイズリー柄でした。
ペルシャからインド経由で英国に渡り、現スコットランドのペイズリーにて機械織りで表現されるようになる柄。
ペルシャではbushを意味する名前で呼ばれていた、自らの重みでたわんだ花束のような模様。
今回、木版染めのテキスタイルを見て、あらためて魅力を感じています。
こちらは先月、ジャイプールから届いたもの。
手織りのとろっとろのパシュミナショールの隅っこに、よく見たら織り込まれていました。
解像度の低さが、何だか可愛いペイズリー柄です。
ベルナール・ビュフェ展
Bunkamuraのザ・ミュージアムへ、ベルナール・ビュフェ回顧展を見にでかけました。
静岡のベルナール・ビュフェ美術館の所蔵品から80点が展示されています。
私のビュフェとの出会いは高校時代、新潮文庫のフランソワーズ・サガンの表紙です。
多分全部、揃っています。トップ写真はそのうち一番小綺麗な一冊。
初めてパリへ行った時は、ぶらっと入ったギャラリーでちょうどビュフェの展示会がおこなわれていました。二十歳の頃でしたから「パリでビュフェを見た」ことに大満悦だったのを覚えています。
今回は回顧展ということで、特に初期の作品を多く見られて良かったです。
一枚の絵は、キャンバスの一部が花文字のように盛り上がっていました。キャンバスにホームリネンを転用したのでしょうか。
ビュフェが画家としてスタートしたのは戦後まもなくの時期。モノ不足を思わせるような薄塗りの絵の具、少ない色数、でもこの時期特有の魅力があります。
今回80点を見終わって、モチーフで私が一番気に入ったのは電線。
ボールドなラインのあいだに、風にふるえるように頼りなくつながる筆のタッチ。
たまりません。
ベルナール・ビュフェ展は1月24日まで。
大きな絵が多いので見ていてリフレッシュできるのと、間近で実物を見ないと分からない絵肌の豊かさがあるので、お好きな方には全力でお勧めします。