10日のBプロ。
まず印象的だったのは、コジョカル&コボーの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。
バランシンが見たらお墓の中でひっくり返りそうだけど、でもチャーミングでわくわくする。全幕ものの抜粋といってもおかしくないくらい表情のある舞台になっていた。
ギエムの「椿姫」も、すばらしかった。前にも一度、全幕で見ていて、その時も相当感動したはずなのだけれど、不思議とこの人のパフォーマンスは、「前のほうがよかった」というのがない。その場その場で必ず別世界に連れて行ってくれるので、いつも満足感がある。ニコラは冴えなかったけど、別に気にならない。
あとは。
ステパネンコの「カルメン」アロンソ版、全幕で見てみたい。これボリショイが初演だということを、プログラムをみて初めて知った。ふーむ。彼女は手首から先が長いのかな、こういう振付けだとすごく表情が出ていい。
セミオノワ&フォーゲルはAプロのほうがよかった。ポリーナちゃんの黒鳥は2度目だけれど、やはり違和感あり。黒目がちな眼なので、白目で睨むのが難しいのかしら。猛々しい感じがないのは、きっと良い人なんでしょう。
「ドリーブ組曲」、ルテステュデザインの衣装がちょっとバージョンアップしていた。濃紺→濃紫に。おしゃれさん。
そして「三人姉妹」がロシア将校ではなくバスの運転手に見えて仕方なかったのは、内緒。
「ジュエルズ」は、私は衣装も踊りもオペラ座組のほうが好み。無機質で、”ダイヤモンド”というタイトル通り、不可侵な感じがしたのが、好き。
さてこれで今年の夏もおしまい!楽しかった!
今この瞬間に生きている人間がその人の名前で見せるパフォーマンスに触れるのは、絵画や彫刻を見るのとまた違った意味がある。
いつもありがとうございます。
世界バレエフェスティバル
Aプロの3日め。
開始からカーテンコールが終わるまで、約5時間。リング並み。
今回は、オーストラリアバレエを筆頭に、全く知らないバレエ団からダンサーが参加しているので、それが楽しみだったのだけれど、ひととおり見てみて、また見たいと思ったのは、ルシンダ・ダンだけだったな。バランスがよくて、腕の動きが綺麗。オーストラリア・バレエ自体、ロイヤル仕込みだと彼が言っていたけれど、そうならば凄く納得。
タマラ・ロホの「白雪姫」は、ぜひ全幕で見てみたい。音楽も楽しい。白雪姫は、雪のように白い肌にからすの羽のような黒い紙、と形容されていたっけ。本当にそんな感じのチャーミングなお姫様・・とそのカバン持ち。誰だ、彼を呼んだのは?タマラだけに拍手したくてもどかしいカーテンコールだった。
こういう機会では、その作品の振付家率いるバレエ団の「本場もの」を見るのが楽しみなので、ハンブルグ・バレエの「椿姫」とか、シュトゥットガルト・バレエのクランコ版「ロミ・ジュリ」がとても楽しみ。
両方とも振付のフレッシュさ(何でそう感じるんだろう?不思議。全ての動きに意味と勢いがある)がすごく心地よくて、特にポリーナ&フリーデマンのロミ・ジュリは何だか見ていて幸せだった。ポリーナはバルコニーで待機の際の”しな”に不慣れなところがあったものの、踊り出したら上手で可憐で。フリーデマンは文句なし。
ルテステュ&マルティネスの「ダイヤモンド」、ギエムの「TWO」は、上手じゃない人が踊ったら相当つまらなくなるのを、さすがに別世界に連れて行ってくれるような完成度。
オレリー&ルグリの「扉」も、既に彼らの作品になっていて。
今回は演目もカンパニーも盛りだくさんだけれど、結果的にパリ・オペラ座の実力が浮き出て見えたのはちょっと皮肉だった?
ヴィシニョーワはすごく説得力がある。彼女が踊るものは、何でも見てみたい。オレリーも同じく。彼女はキャラクターを演じるのをとても楽しんでいるように見える。あのカーテンコールのパフォーマンス、5~6年前には考えられなかったよね。
女性ダンサーの充実ぶりを感じました。彼女たちが今回組んだパートナーは、きっと次回の出演がないでしょう。世代交代ですな。
長丁場だったけど、ちっとも疲れない、宝もののような5時間。
素敵なバースデープレゼントです。いつもありがとう。
DON QUIXOTE
世界バレエフェスティバルの開幕戦。
タマラ・ロホとホセ・カレーニョのドンキホーテ。
金髪碧眼のゲストダンサーの場合に比べて、このふたりは小柄だし黒髪に黒い目なので、東京バレエ団に混じっても見た目に馴染む。
しかしひとたび踊り始めると、思わず唸る(本当に、実際に、唸ってしまう)ような洗練されたテクニックと、優雅さが際だつふたり。
ホセ・カレーニョのサポートは常に完璧。パートナーに向ける笑顔も含めて。ロホは何かやってくれそうな不敵なオーラを漂わせながら、回る回る。独楽のようにぶれない軸を持つのはホセ・カレーニョと同じ。
東京バレエ団では飯田氏のサンチョ・パンサがとても良かったのと、ドリアードの女王を踊った人が割と優雅に見えた。文句なく楽しかった。 ありがとうございました。
それはそうと衣装と舞台美術には毎度がっかりさせられる。
本日の美術テーマは題して「マレー系ディズニーランド」でした。赤と水色が特にひどい。「赤はこの色しかありません。うすい青はこの色しかありません。」とメーカーに言われて仕方なく12色の中から選ぶ、赤と水色というイメージ。
背景で使われている幼稚なパステルカラーも気に入らない。彼は照明が単調で芸がないと言っていた。
「大入」だった今日の公演。
終了後どっと流れ出す人に混じって上野駅へ歩いていったら、なんと今日は隅田川の花火の日だったのね。あのあたり一帯、大変な人出でした。
香味屋でごはんを食べて、恵比寿に戻ったら西口ロータリーでは櫓を組んでお祭り。
櫓の上で浴衣を着て踊る女の子たち。なつかしいなあ、子供の頃の夏の日。毎年同じことを言っている気もするけれど。
青磁
青磁の美@出光美術館。
この美術館も、アクセスが良くて、疲れる前に全部見てしまえるところが、好き。
混んでいなくて落ち着いて見られるし。
漆教室で、他の人が破損した陶器に「金継ぎ」を施すのをみていて、「いつか青磁に金継ぎを」と夢見ている私。
それはともかくとして、今日のこの展示会は、いろいろな青磁が見られて楽しかった。
青磁、といいつつ、あのティピカルな薄いブルーグリーンの釉薬だけでなく、古い時代のものは、沈んだグリーンあり、茶色あり、グレーあり。
全部見てみて、何の知識もなく、一番気に入ってしばし眺めてしまったのは、青でも緑でもなく、ほとんど薄墨色の釉薬がうっすらとかかった、牡丹の花模様の鉢。花模様のレリーフに、艶のある釉薬の濃淡がからんで、ちょっと目眩がするような濃密さ。
でも、その当時、金よりも大切にされた玉(=翡翠、ジェイド、正確にはネフライト)に似せようと釉薬が研究されていたというので、その当時の人になりきった眼で見ると、また違う価値観で見えてくる。
本当に玉を彫刻して作ったかのような、あまり鮮やかでないグリーンの勝った発色、しかも器に蜜がかかったように隙がなく光っているようなの、そういうのが、きっと、意にかなったものだったのかなあ、とかね。
そういえば家に何故かたくさんあった青磁の器、次に帰ったときにはいくつかもらってこようっと。
若沖
日経新聞で何週か連続で紹介されていたりしたので、ほとぼりが醒めるのを待っていた、「若沖と江戸絵画展」@東京国立博物館。
電車の中吊り広告だか駅貼り広告だか、とにかくどこかで強烈な色彩の、ポスターを見て以来、”絶対見に行く展覧会”のリストに入っていたもの。
結構客層がばらばらで。国籍も、年齢も。米国人のプライス氏なる人物のコレクションらしいですね。
展示室が4つくらいあって、そのうちの1室が「若沖の部屋」だったのだけれど、めちゃくちゃ面白かった。というより久々に「あなた天才!」という爽快感。筆の運びに確信があって、まるで生きているような動植物。
この日印象的だったのが、展示室の外で歩いていた若い男の子2名。「若沖、ヤベエ!スゲエ!」を連発。その今どきの話し口調といい、だらしのない格好といい、いかにも渋谷にいそうな二人組だったのだけれど、土曜日の午後、ちゃんと若沖の絵に影響を受けて興奮する彼らが、とっても頼もしく見えた。
どれも力強くて素敵な絵ばかりだけど、プライス氏の最初のコレクションという葡萄の絵が、いつまでも眺めていたい絶妙なバランス感覚で、最高。もう一度見に行ってもいいくらい。
そうそう、展示方法が面白くて、作品に当てられた照明が、一定の間隔で暗くなったり明るくなったり。作品保護と、出来るだけ部屋の中の調度品としての見え方にしたいというコレクターの意図らしい。
本当に、明るさの加減で、墨一色で書かれたものなんかは、白い地と墨の濃淡の、見え方がずいぶん変わる。箔が貼られていたりすれば、なおさら。「あ、今夜が明けました」「午後四時、日がかげってきました」なんて空想しながら見るのが楽しかった。